なろう系VTuberリイエルのブログ

ネット小説紹介のVTuberがネット小説について語るブログです

ネット小説とケータイ小説の関係性について思うところがあったのでまとめてみる。

最近、ライトノベルの歴史がTwitterで話題になっています。この流れを受け、以前書いた飯田さんの本への補足に、ネット小説とケータイ小説の関係性についての考察を加え、増補版として公開します。

『ウェブ小説30年史 日本の文芸の「半分」』を読んで より

p.69~ ケータイ小説の話が書かれていますが、そもそもPCのインターネットとモバイルのインターネットの間において、少なからぬ断絶があったことについて言及しなくてはならないと思っています。 その断絶があったからこそ、後のPCを主体とするネット発の小説とは、毛色の大きな違いが生まれていると思っています。

当時のモバイルインターネットにおいてはcHTML*1やHDML*2といった特別な記述言語で書く必要があり、PCインターネットのページがそのまま見られる環境は稀有でした。*3

なぜならば、当時のモバイル端末(いわゆるガラケー*4)は今日のスマートフォンと比べ性能がかなり限られており、PCページを表示できるほどの能力を確保することが難しかったからです。

恋空 が書かれていた2005年当時のハイエンドケータイ端末はこのような感じでした。

k-tai.watch.impress.co.jp

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2005年当時一番売れた機種であるP901iをピックアップしてみます。

k-tai.watch.impress.co.jp

画面サイズは2.2インチで、現在のiPhone16の6.1インチと比べると、約2.8倍の差があります。 10字×10行~15字×15行 の表示しか出来ず、文庫本の本文1ページ40文字×34行*5と比べてもかなり少なかったことがわかります。

現代ほど通信環境もいいわけではないので、ガラケー用の専用の軽量なページを用意しておく必要がありました。画像なども制限がありましたし、課金は青天井だったのが2004年にドコモでパケ・ホーダイというサービスが開始されてようやく定額制の時代がやって来たなどの事情もありました。 タッチパネル操作でもなく十字キーで操作するし、動作も遅い時代です。

後年になってフルブラウザ対応機種が出ますがそれまではPC用サイトを見れる機種はほとんどなく、基本的にガラケー向けに構築されたWebサイトを見る必要がありました。

そのため、いわゆるケータイサイトは働くビジネスマンや暇な時間を謳歌するような主婦層、そしてPCを持たずケータイのみで外界と接するような若い女性を中心に普及が進んでいました。 2000年代半ばは高校生になるとようやく携帯電話を買ってもらえるぐらいの感じだったと思います。

そんな時代に流行ったのが、魔法のiらんどです。 本来は、ホームページ作成サービス*6で、機能の制限されたガラケーのインターネットに特化していました。

同時期に前略プロフィールも流行っていて、今でいうInstagramのプロフィールのように、自己紹介を目的として使われていたSNSだと聞いています。

そんな女子たちの間で流行ったのが、ガラケーから投稿できる魔法のiらんどの機能を使って小説を公開することだったのです。 それがケータイ小説ブームの正体です。

こういうのは、一個が流行ると雨後の筍のように様々なサービスが生まれます。 その中の一つが、モバゲータウン(現mobage)のモバゲークリエイターです。最終的にmobageから切り離されエブリスタとなってDeNAの資本関係すらなくなるわけですが…。

モバゲータウンは当時男女問わず人気になり、怪盗ロワイヤルは社会現象にもなった記憶があります。*7

一方、アニメオタクと呼ばれるような層はPCサイトを中心に文化を形成しており、ケータイ小説の文化とは相入れる事ができなかったと思っています。 主に2chがコミュニティとして機能していましたが、ケータイ文化圏とは別と認識しています。

ケータイ小説は特に若い女性層や主婦層をメインターゲットとしており現在のネット小説におけるターゲット層と完全に異なっていると思います。*8*9

2000年代のネット文学といえば、電車男*10S県月宮*11あたりがすぐ浮かぶでしょうか。あとVIP小説の末期ですが、まおゆう*12の存在も忘れてはならないでしょう。

PCは、ガラケーと比べると表示領域の制限の少ない環境です。2chの投稿は30行ぐらいだったかの制限はありましたが、それでもガラケーの画面よりは制約が少なく、自由な小説を書くことが出来ました。

ライトノベル的な文章とも相性がよかったのではないかと思います。そもそもライトノベルという用語を広めたのが、2chという説もありますし。

そのため、ケータイ文化はいわゆるアニメ系オタクのサブカル系コンテンツと全く異なる進化をすることとなったのではないかと思っています。 2chやテキストサイト*13などを中心に構成されていたアングラ寄りの当時のオタク文化とは文化圏がかなり異なっていたんじゃないかなぁと思います。

とりとめもなくなりましたが、結論としては、ライトノベル的な「なろう」以降のネット小説と、独自の文化を形成したケータイ小説が、その成り立ちから考えても交わるのは想像しにくい、というお話でした。*14

ついでに、ライトノベルの歴史?本で最近出たやつをまとめておきますね。

*1:Compact HTMLと呼ばれるドコモの制定したHTMLサブセット

*2:auで使われていた形式。HTMLと全く互換性はない。

*3:当時の雰囲気はWikipediaの勝手サイトの記事などでも伺うことが出来る

*4:ガラパゴスケータイの略。日本で独自に進化したフィーチャーフォンをガラパゴス化現象で生まれたものとして揶揄している。

*5:講談社ラノベ文庫 募集要項を参考にしました

*6:今でいうところのWixみたいなものといえば良いんですかね

*7:一方、mobageのオタク文化との交流は2011年のアイドルマスターシンデレラガールズの登場を待つ必要があるわけですが…。

*8:魔法のiらんどは当時圧倒的に学生に使われていてユーザーの6割が女性となっていて、「魔法のiらんど」は、10代・20代の女性をコアターゲットという記述もあります

*9:ケータイ小説のリアルという書籍の紹介文には『「ケータイ小説」書籍のメイン読者は地方の中学生である判明しました。』とあり、あながち間違った指摘ではないと思っています。

*10:電車男はリアルタイム形式のいわゆる安価スレみたいなものだが、後年のVIPのノリに大きく影響していると思われる。

*11:一応この話は創作であったと大百科のまとめには書かれている

*12:魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」という釣りスレを橙乃ままれが乗っ取る形でスタートした掲示板小説。珍しくまとめサイトがまだ健在。

*13:テキストサイトについてはちゆ12歳侍魂などの話も必要だと思いますが、この辺はしっかり研究された文献がありそうなので割愛します。

*14:そもそも、ネットの小説投稿文化はワナビ文化みたいなところがあってあんまり商業化してないしね。

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